石野葉穂香です。
震災から〝4度目の夏〟を迎え、沿岸の農水産業もだいぶ元気を取り戻しつつあります。
今夏は、水産県・宮城の復活を目指す、若き漁師の方々を、何人か紹介させていただこうと思っています。
今回はその第1回目。
今年の春、震災後初めて牡蠣の出荷を行った、南三陸町伊里前の「マルタ拓洋水産」さんの千葉拓さんです。
伊里前は旧歌津町の中心街区でしたが、高さ約23mという巨大な津波に襲われ、街はほとんどの建物が流失してしまいました。
街の北、漁港を見下ろす高台に、地区の鎮守様である三嶋神社があります。
鳥居は流されてしまいましたが、本殿はどっしりと昔のまま。
森厳な空気を湛えて、今、街の復興を静かに見守っています。
「マルタ拓洋水産」さんは、その三嶋神社の石段のたもとにあります。
以前は伊里前川の右岸に自宅や加工場がありましたが、被災したため、現在地を借りて営業中です。
そして、震災の翌年である2012年春に養殖を再開した牡蠣が、ぷっくりと大きく育ち、今年3月から出荷を始めたのでした。
「正面が唐島。その右側が洞の浜というところで、この付近の海底からは、キレイな〝海水〟が湧き出している。海の生物が喜ぶ〝甘い水〟です」
と、若き専務取締役である千葉拓さんが、眩しい初夏の海を指さしながら、伊里前の海の不思議を教えてくださいました。
「歌津の奥にある田束山や岸辺の森に降った雨が、大地のミネラルを吸収した地下海水を押し出して、おいしい水となって伊里前湾に湧き出す。牡蠣もアワビも味がよく、成長も早い。三陸有数の豊かな湾なんです」
2011年3月11日、拓さんは体験したことのない「キーン」という耳鳴りに襲われました。「何だかイヤな予感がして――。2日前にも地震があった。午前中、牡蠣をむきながら、家族と〝今度、地震が来たらどうしよう〟なんていう話をしていたら、午後、ホントに地震が来た」
お父さんは船を沖に出し、拓さんと家族は伊里前小学校の校庭へ。でも、小学校の校庭にも2mほどの波が上がったため、さらに後背の歌津中学校へ。
家族は全員、無事でしたが、自宅と作業場は流失してしまいました。
6月、仮設住宅へ。そして半年後の10月、家業だったカキ漁家を、現在の株式会社にして、一口1万円の「結っこ基金」を募り、カキ養殖再開に向けてスタートしました。
「自分たちがつくった牡蠣を直接販売したい。顔が見えるっていうか、おいしいと言ってもらえるのはやりがいがあります」
養殖の再開は2012年4月から。そして2013年春には、たった一年で、「震災前よりもおいしい、大粒の牡蠣」に育ちました。
「でも、加工場がなくて・・・その年の出荷はできなかったんです。だけど、味はすごくよかった。これまで食べたどんな牡蠣よりもおいしかったです。出荷できないのは残念でした」
そうして迎えた3年目の〝3.11〟。
この日、「マルタ拓洋水産」の牡蠣が、いよいよ全国に向かって出荷されることとなったのです。
その名は「南三陸歌津伊里前 復興 結っこ牡蠣」。
温水による海藻除去をせず、また、カゴやネットも使わないでのびのび育った無成形の牡蠣。もちろん薬品洗浄も消毒もしない。美しい伊里前湾の自然の力を信じて育てた牡蠣です。
森と海の栄養をたっぷりと身に蓄えて、食べた誰もをおいしい笑顔にしてしまいます。
「震災があっても伊里前の海は変わっていなかった。逆に、湾の水のよさ、ふるさとの海の底力に気づかされました。津波はやってきた。でも海は、それでも俺たちを生かそうとしてくれているんだなって思ったんです」
津波は、三陸地方の暮らしの風景を大きく傷つけ、漁家の家や漁具なども流失させてしまいました。さらに、復興がなかなか進まない中で、地区は高齢化、後継者不足という問題にも直面しています。
「だけど、〝復興 結っこ牡蠣〟は、おいしくできあがりました。伊里前の水産業の復活をアピールしていきたい」と拓さん。
大震災はあったけれど、豊かな海は昔のまま。その海の恵みをいただくこの場所を、未来の子どもたちに伝え残していきたい、と。
「日本の土地らしさ。自然と文化が調和した暮らしって、この国の〝あたりまえ〟の風景ですよね。あたりまえのことが感じられる町をまたつくっていきたいです。豊かな海と、その海を育む湧き水を生み出す森を守っていきたい。〝浜の生き様〟っていうか、ここで生きて行くんだということを、子どもたちにも伝えていけたらって思っています。」
自然災害からは、きっと逃れることのできない「宿命」を背負わされた日本。
それでも、日本人は、自然に逆らわず、そのご機嫌にくるまれて生きてきました。
立ち上がる。何度でも――。
家族を守るために。ふるさとの海と森を守るために。自然と関わって生きていく自分たちの未来を、また、ここでつくっていくために。
これが「日本男児」ってヤツかな。
そう思わされた、拓さんとの出会いでした。
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なお、「南三陸歌津伊里前 復興 結っこ牡蠣」は、6月中旬ごろまでネットで販売されています(在庫がなくなり次第終了)。
2㎏(11個以上)3750円
4㎏(22個以上)5160円
6㎏(33個以上)6570円
などです(中150g~大180gの混合/梱包資材・消費税・送料込)。
「株式会社マルタ拓洋水産卸事業部」
電話&FAX/0226-36-3167
HP/http://www.maruta-takuyo.co.jp/
E-Mail/info@maruta-takuyo.co.jp
営業時間/9:00~18:00
定休日/日曜日
おいしさこの上ない牡蠣です。
南三陸の海の恵みを、ぜひ、味わってみてください。
(取材日 平成26年5月11日)
震災から〝4度目の夏〟を迎え、沿岸の農水産業もだいぶ元気を取り戻しつつあります。
今夏は、水産県・宮城の復活を目指す、若き漁師の方々を、何人か紹介させていただこうと思っています。
今回はその第1回目。
今年の春、震災後初めて牡蠣の出荷を行った、南三陸町伊里前の「マルタ拓洋水産」さんの千葉拓さんです。
伊里前は旧歌津町の中心街区でしたが、高さ約23mという巨大な津波に襲われ、街はほとんどの建物が流失してしまいました。
街の北、漁港を見下ろす高台に、地区の鎮守様である三嶋神社があります。
鳥居は流されてしまいましたが、本殿はどっしりと昔のまま。
森厳な空気を湛えて、今、街の復興を静かに見守っています。
大きな大きな三嶋神社のご神木。 神社は、延元2年(1337)、葛西氏の家臣・千葉刑部が勧請したと伝えられています |
「マルタ拓洋水産」さんは、その三嶋神社の石段のたもとにあります。
以前は伊里前川の右岸に自宅や加工場がありましたが、被災したため、現在地を借りて営業中です。
そして、震災の翌年である2012年春に養殖を再開した牡蠣が、ぷっくりと大きく育ち、今年3月から出荷を始めたのでした。
出荷前、牡蠣殻についた付着物を取り除く「かき磨き」の作業。 この日は、「広島自治体学会」の皆さんが見学に来られて、 かき磨き作業をお手伝いされていました |
「正面が唐島。その右側が洞の浜というところで、この付近の海底からは、キレイな〝海水〟が湧き出している。海の生物が喜ぶ〝甘い水〟です」
と、若き専務取締役である千葉拓さんが、眩しい初夏の海を指さしながら、伊里前の海の不思議を教えてくださいました。
「歌津の奥にある田束山や岸辺の森に降った雨が、大地のミネラルを吸収した地下海水を押し出して、おいしい水となって伊里前湾に湧き出す。牡蠣もアワビも味がよく、成長も早い。三陸有数の豊かな湾なんです」
湾の真ん中に浮かぶのが唐島。 右手の森が洞の浜 |
2011年3月11日、拓さんは体験したことのない「キーン」という耳鳴りに襲われました。「何だかイヤな予感がして――。2日前にも地震があった。午前中、牡蠣をむきながら、家族と〝今度、地震が来たらどうしよう〟なんていう話をしていたら、午後、ホントに地震が来た」
お父さんは船を沖に出し、拓さんと家族は伊里前小学校の校庭へ。でも、小学校の校庭にも2mほどの波が上がったため、さらに後背の歌津中学校へ。
家族は全員、無事でしたが、自宅と作業場は流失してしまいました。
6月、仮設住宅へ。そして半年後の10月、家業だったカキ漁家を、現在の株式会社にして、一口1万円の「結っこ基金」を募り、カキ養殖再開に向けてスタートしました。
「自分たちがつくった牡蠣を直接販売したい。顔が見えるっていうか、おいしいと言ってもらえるのはやりがいがあります」
休憩時間には、牡蠣鍋のほか、歌津の春の味覚であるシロウオなどを皆でいただきました。 |
「でも、加工場がなくて・・・その年の出荷はできなかったんです。だけど、味はすごくよかった。これまで食べたどんな牡蠣よりもおいしかったです。出荷できないのは残念でした」
そうして迎えた3年目の〝3.11〟。
この日、「マルタ拓洋水産」の牡蠣が、いよいよ全国に向かって出荷されることとなったのです。
その名は「南三陸歌津伊里前 復興 結っこ牡蠣」。
温水による海藻除去をせず、また、カゴやネットも使わないでのびのび育った無成形の牡蠣。もちろん薬品洗浄も消毒もしない。美しい伊里前湾の自然の力を信じて育てた牡蠣です。
森と海の栄養をたっぷりと身に蓄えて、食べた誰もをおいしい笑顔にしてしまいます。
写真が下手ですみません(ちょっと乾いてしまいました)。 でも、大きさも味わいも、第一等の「復興 結っこ牡蠣」です |
「震災があっても伊里前の海は変わっていなかった。逆に、湾の水のよさ、ふるさとの海の底力に気づかされました。津波はやってきた。でも海は、それでも俺たちを生かそうとしてくれているんだなって思ったんです」
津波は、三陸地方の暮らしの風景を大きく傷つけ、漁家の家や漁具なども流失させてしまいました。さらに、復興がなかなか進まない中で、地区は高齢化、後継者不足という問題にも直面しています。
「だけど、〝復興 結っこ牡蠣〟は、おいしくできあがりました。伊里前の水産業の復活をアピールしていきたい」と拓さん。
拓さんは、シンガーソングライターでもあります。 ふるさとへの思いを綴ったオリジナルは約20曲。 地区の集まりなどでもリクエストされることが多いそうです |
「ふるさと」という曲です。 拓さんにしか書けない、歌えない、 強烈な思いと個性がほとばしる歌声でした |
「日本の土地らしさ。自然と文化が調和した暮らしって、この国の〝あたりまえ〟の風景ですよね。あたりまえのことが感じられる町をまたつくっていきたいです。豊かな海と、その海を育む湧き水を生み出す森を守っていきたい。〝浜の生き様〟っていうか、ここで生きて行くんだということを、子どもたちにも伝えていけたらって思っています。」
前列左から、お父さんの正海さん、拓さん、長女の彩音ちゃん、 拓さんが師匠とあがめる「NPO法人未来守り(さきもり)ネットワーク」の新井章吾さん、 「広島自治体学会」の茂田幸嗣さん、 後列左から奥さんの良子さん、次女の遙音ちゃん、お母さんの和恵さん 「広島自治体学会」の佐藤孝志さん、同じく北本拓也さん。 ちょっと見づらいですが、拓さんの持つホワイトボードの文字は「感謝」です |
自然災害からは、きっと逃れることのできない「宿命」を背負わされた日本。
それでも、日本人は、自然に逆らわず、そのご機嫌にくるまれて生きてきました。
立ち上がる。何度でも――。
家族を守るために。ふるさとの海と森を守るために。自然と関わって生きていく自分たちの未来を、また、ここでつくっていくために。
これが「日本男児」ってヤツかな。
そう思わされた、拓さんとの出会いでした。
========================================
なお、「南三陸歌津伊里前 復興 結っこ牡蠣」は、6月中旬ごろまでネットで販売されています(在庫がなくなり次第終了)。
2㎏(11個以上)3750円
4㎏(22個以上)5160円
6㎏(33個以上)6570円
などです(中150g~大180gの混合/梱包資材・消費税・送料込)。
「株式会社マルタ拓洋水産卸事業部」
電話&FAX/0226-36-3167
HP/http://www.maruta-takuyo.co.jp/
E-Mail/info@maruta-takuyo.co.jp
営業時間/9:00~18:00
定休日/日曜日
南三陸の海の恵みを、ぜひ、味わってみてください。
(取材日 平成26年5月11日)